映画を1分ごとに区切って観てみた。

映画の評論、研究を行うブログです

機動戦士ガンダム逆襲のシャアを1分ごとに区切ってみた。後編


ネタバレしかしていません。
未見の方は是非、逆襲のシャアでめくるめく富野由悠季の世界を
是非ご覧下さい。

前編はこちらです。

http://benio25250.hatenablog.com/entry/2015/02/09/190502


見どころと考察

後編は主観的に見どころと考察を書いていきます。

アムロとシャアそしてクェス

個人的にこの映画内で一番の見どころはアムロとシャアの対比です。
この対比が最高に美しい。

主人公、アムロ・レイはいわゆる善玉ですが、軍人で公務員です。

連邦の社会に参加しているので命令には背けません。

次にシャア・アズナブルはテロ組織のリーダーにして革命者、過激な言い方をすれば社会のはみだし者です。
全人類が宇宙にあがればニュータイプへの革新が起こると信じ地球に隕石を落として大量虐殺を行おうとします。

精神面でもファーストでは戦場に出る度に気持ちが落ち込み、神経質で内気だった少年が自立し、自分から作戦を立ててνガンダムを設計する頼り甲斐のある、大人になっています。


一年戦争時、戦場でのストレスで白目を向くアムロ少年

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対してシャアはファーストでは父を暗殺したザビ家への復讐に燃え戦果を上げながら機会を伺っていますが、過去作Zガンダムで登場した悪玉のハマーン・カーンやパプテマス・シロッコをかなり非難していたのにもかかわらず他者を俗物と罵り見下す人間になっています。
また、ララァに母親の面影を見てそれをナナイに求め、
その上、クェスにララァの影を見ながらもまた同じ様に兵器として利用します。
 

一年戦争時、その実力一本で成り上がって行ったシャア青年

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精神面で自立したアムロか、過去に縛られ諦めきれない幼稚さが残ってしまったシャアか、小説版にはアムロに子供がいるのでより一層この対比が深められています。

次に面白いのは、
ニュータイプの能力です。
ニュータイプ能力にしても戦闘能力にしても個人としてはアムロの方が強いのです。

生身の戦いではシャアをぶん投げるアムロ

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モビルスーツの戦いではシャアをぶん殴るアムロ

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ニュータイプによる人類の早急な革新を望んでいるのは覚醒度が上のアムロよりもシャアです。

その上、自分の目のかけたララァは一緒にいた時間や恋人としての関係が長く濃いハズにも関わらず、ララァはたった数度会っただけのアムロの方と感応してしまいます。

この劇中のシャアのセリフにも出てくる
「貴様さえいなければ!」
装甲騎兵ボトムズにおける主人公キリコの能力に嫉妬する、ロッチナの
「私がお前だったなら!」
の嫉妬の構造に似ています。

キリコに嫉妬するロッチナ

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現実世界でもあいつよりも俺の方に才能があったならば、
俺にあいつの才能があったならばと妬む場面は往々にしてあるものです。

これらの対比がある為、シャアのアムロに対する情念は益々募り、そこに切実さが生まれアムロとシャアが絡むシーンは緊迫感があり、盛り上がります。

ちなみにララァの再来であるクェスが加わる事によって
アムロ、シャア、ララァの関係性が
アムロ、シャア、クェスによって1年戦争の再現となる、という手法も試みられています。

富野セリフが冴えわたる!!

富野由悠季監督の作品ではその独特なセリフが注目されますが逆襲のシャアにおいてもそれは冴えに冴えます。


特徴としては
・自分の言いたい事、感情をとりあえず喋る
・基本的に人の話は聞かない
・断片的かつ、説明不足
・時折みせるオカマ口調
これがかなりの曲者でモブに至るまでこの喋り方です。

クェスの父が乗るシャトルの受付の兄ちゃん

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後ろ向いているとはいえ、

まだ連邦のお偉いさんのお客さんが目の前にいるのに
「チッ!これだから政治家って奴は」
と舌打ちを食らわして悪口を言います。
残念ながら客商売に向いていない印象です。

個人的に似てるなと思うのが、大工の棟梁同士の会話です。
・時間が基本的に無い
・技術は教わるより勝手に慣れろのスタンス
・周りがうるさいので口が悪く大声
という特徴があります。

 

富野セリフのメリットとデメリットはなんでしょうか?

メリット
・命のやり取りをする戦場において凄まじい臨場感を発揮
・感情がストレートなので言い争いが映える
と思います。

デメリット
・基本的に会話劇になるとキャラクターの言っていること真意が読み取り辛い
・説明台詞を意図的に省いているので話が分かり辛い
・時折会話が成立していない
などがあると思います。

今作でその冨野セリフの極地にいるのはヒロインであるクェス・パラヤです。
彼女は自分の言いたい事しか喋らないので殆ど何言ってるか分かりません。
精神的に幼くて我慢が出来ないのを差し引いてもこのレベルの言語能力と行動はヤバいです。

シャアを求め宇宙空間に私服で飛び出すクェス。

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しかし、この映画ではクェスが一番モテます。

やっぱこの映画、只者ではない。。。

シャアって結局どんな奴か

劇中、ミライとララァにはシャアは純粋

と言われますが、
純粋になんなのかと考えると

純粋に自分の事しか考えてないのです。
人類を革新させたいのも、アムロと決着つけたいのも、純粋にエゴです。
混じりっけ無し、疑いもしません。

この態度はファンの間でも
マザコンでロリコンで自意識過剰呼ばわりで散々です。

マザコン

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アクシズを地球に降下させる前、ナナイを膝に乗せて胸に頭を埋め、よしよししてもらう「マザコンだっこ」

ロリコン
 

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クェスを利用しやすくするため男女の関係をほのめかすシャア

自意識過剰 

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サイコフレームの人類の意思の光を浴び人類の可能性を見て勝手に感極まって泣く

僕もここではシャアの事をボロクソ言っていますが、
こんなに非常に人間臭くて非常に魅力的なキャラクターで注目せずにはいられない、大好きなのです。
こんなキャラクター早々いない!
というか早々いてたまるか!

余談ですが
このマザコンだっこは彼女が出来て、重力が軽い宇宙に上がったら自分の膝に彼女を乗っけて是非ともやってもらいたいです
(望み薄)

ダメだったけど最後に残る希望

この映画の最後ではアクシズ落下は阻止したもののアムロとシャアは行方不明になってしまいます。
これは勇者が魔王と最後相打ちになって死んでしまったのと同義で
単純なハッピーエンドではありません。

しかし、主人公たちは行方不明になってしまったがこの光によって人類は確かに革新するのではという可能性は示せました。

このダメだったけど最後に希望が残るというのは結構富野監督作品では多用されるエッセンスです。

無敵超人ザンボット3

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ガイゾックに総力戦をしかけ家族は全員死んでしまうがたった一人生き残った勝平を地球人は受け入れてくれます。

機動戦士ガンダム

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戦争が終わり、父は死に、母に拒絶され、ホワイトベースもガンダムもなくなってしまいますが仲間は受け入れてくれます。

伝説巨神イデオン劇場版

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 人類は全滅してイデに取り込まれてしまいますが、全滅した先ではお互いがお互いを認め合い、メシアが新しい人類を導く存在として誕生します。


この手のラストは全滅の富野、黒富野と言われますが、
僕は希望や可能性が最後の最後で顔を覗かせるあたり、いろんな雑多な思想や感情が削がれた時、
残る要素が好きなんだと思います。

富野由悠季監督の凄み

逆襲のシャアのもう一つの特徴として映像の情報量がとても多いです。

例えば、ラーカイラムのメカニックのアストナージ。
ゲームなどでは頼れるメカニックで親しまれていますが、
劇中、彼が死んだ事を初見で気付いたのは何人いるでしょう。

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他にもモビルスーツの細やかな描写、爆発そのものでなく瓦礫などの二次災害で死んでしまうモブキャラクターなどキリがありません。

それにこの映画はやっぱり変です。
ララァの再来であるはずのクェスはアムロとシャアに組み入れられないまま不安定に死ぬし、ブライトの息子のハサウェイは激情の赴くまま、アムロの恋人のチェーンを殺してしまいます。
カオスで理不尽です。
それに加え、高い映像とモビルスーツ描写、ヘンな台詞が相まって何かある、何か感じさせる映画になっているのだと僕は感じました。

とここまで書いて、友人にガンダムZZから逆襲のシャアにつながり、
イデオンとガンダムが戦う
という衝撃的な漫画を紹介して頂いて、

逆襲のギカンティス機動戦士vs伝説巨神

なんでもニュータイプの起源そのものを覆す内容だそうなのでめっちゃ楽しみです。 

一粒で何度も楽しめる味が出続ける、富野由悠季監督の作品は業が深い、味が濃いです。