映画を1分ごとに区切って観てみた。

映画の評論、研究を行うブログです

「ベイマックス」を1分ごとに区切って観てみた。後編

benio25250.hatenablog.com

 

ネタバレしかしていません。
観てない方は是非ディズニー映画の傑作、ドン・ホール監督作品「ベイマックス」をご覧ください。

物語としての工夫

物語の構造、キャラクター、内容の工夫を見てみます。

ベイマックスは何しにきたか?

ベイマックスは映画内では兄、タダシの死後その入れ替わる形で主人公、ヒロに関わってきます。
日常から離れた異物が少年の日常に関わる事によって少年の成長を促す話は日本では昔から愛されて来た物語です。

有名どころでは「ドラえもん」「オバケのQ太郎」
最近でいえば「妖怪ウォッチ」もその系統に入ります。

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独特な風貌で世界中で人気のドラえもん

ベイマックスは作られた目的が怪我などを治療するケアロボットです。
兄が死んだ後にやってくるケアロボットという設定だけで、よりメンタルに重きを置いた物語である事が分かります。

そしてこの物語で面白いのは中盤約60分の時点でヒロのメンタルのケアは完了するという所です。
約25分〜約60分の間ヒロは兄の死の真相を探るため、仲間たちと交流し、ヒーロースーツを作り、ベイマックスを改造します。
そしてベイマックスの飛行テストが終わった後にベイマックスはこう言います。

「ベイマックス。もう大丈夫だよ。と言われれば終了します。」

つまり、身体的にはヒロのメンタルはもう大丈夫になっているのです。

そこでヒロは
「まだダメだ」
とベイマックスの申し出を断ります。
兄の死を受け入れる事と、メンタルのケアを分けて考え、自立するまでベイマックスは離れられないのです。

 

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メンタルケアは「自立」するまでがメンタルケア

タダシはここにいます。

ヒロは仮面の男が事件の真相を掴んでいるとして、兄の死の真相が知りたいが為にベイマックスをガンガン改造します。

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思わず抱きしめたくなる私の体が台無しでは?
自分の魅惑のせくしぃーボディにこだわりのあるベイマックス

そして仮面の男の正体がキャラハン教授である事を知り酷く動揺します。

ベイマックスにとって最も重要なコアであるヘルスケアチップを取ろうとします。
タダシの死は善意の為に行動した結果招いたひどく理不尽な物であります。
しかし誰のせいにも出来ません。
その結果、ヒロは責任をキャラハン教授にぶつけ命を奪いかけます。

 

その絶妙なタイミングでタダシがベイマックスが何のために作ったかという初心に戻ります。
たくさんの人を助ける事になるぞ。たくさんだ。
タダシが死んでもタダシの思いはベイマックスがいる限り死にません。

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兄貴は死んだ!もういない!!

思いは死なない。

割と多用される手法ですが、描写が丁寧で心に響きます。


ちなみに僕はベイマックスがタダシはここにいます。と言い出した時、一瞬正義の為ベイマックスにタダシが己の意識を移植したのかと思いました。勘違いで良かった。

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悪の邪魔大王国を全滅させるという正義の為に己の意識をコンピューターに移植した鋼鉄ジーグの父、司馬遷次郎

ベイマックス。もう大丈夫だよ。

先にも書きましたが、ベイマックスはヒロが「ベイマックス、もう大丈夫だよ。」と言うまで、
自立するまで離れられません。

日常の中にベイマックスの様な異物が入り込む構造ではお別れによる成長が最もポピュラーです。

ドラえもんの例で言えば、別れを描く物語として有名なエピソードは
映画「帰ってきたドラえもん」いつまでも一緒にいられると思っていたドラえもんが未来へ帰らなければならなくなり、のび太は自立を迫られます。

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そこでのび太はいじめっこのジャイアンへの抵抗という形で自立を示します。

そしてドラえもんにはもう一つ自立の物語があります。

それは同人誌版「ドラえもん最終話」です。
この同人誌は漫画家の田嶋安恵さんが同人誌として描いたドラえもんの最終話で、
本物と見間違う程の出来の良さと、同人誌に二次創作物の著作権の問題として有名になった作品です。

ドラえもん最終話
http://www.geocities.jp/doctor_nobita/

ドラえもん最終話同人誌問題 - Wikipedia

この同人誌内ではドラえもんが電池切れを起こしてしまい、動かなくなってしまいます。
しかし本来記憶のバックアップを耳のパーツによって取っているため耳の無いドラえもん電池を交換すればドラえもんの記憶が無くなってしまいます。(※同人誌独自の設定です)
電池の取り替え方は開発者しかわかりません。

のび太は悩んだ末、動かなくなったドラえもんをそのままにしておいて、ドラえもんが記憶を維持したまま電池を交換する方法を見つけ出し、ドラえもんを復活させます。

今回のベイマックスはこちらのドラえもん最終話の構造に非常に似ています。

ベイマックスとのお別れはキャラハン教授の娘、アビゲイルを救いに行く事で起きてしまいます。
これはタダシがキャラハン教授を救いに行ったのと同じ構造で善意の為に動けば命を失うかもしれません。
そこでベイマックスは案の定、異次元の残骸からヒロとアビゲイルを庇いロケットが破損して動けなくなります。
ここでヒロは自立を迫られます。
そしてヒロは自立を選び
「ベイマックス。もう大丈夫だよ。」
とお別れをします。

その後、ヒロはベイマックスが遺したヘルスケアチップからベイマックスのボディを修復して、ベイマックスを復活させます。

ベイマックスは元々、兄タダシの作ったロボットです。
それが失われた時、自分で作り直す事でヒロはタダシからもベイマックスからも自立します。

この自分で作り直すという行為は現実社会でも自立を表す行為として現れます。
例えば、
結婚して子供を作るのも一度自分の家族の外に出て家族を作り直す。
勤めていた会社を辞めて独立するのも作り直す。

どちらにしても選ぶのは自分。
ベイマックスにもう大丈夫と言うかどうかはベイマックスは本人に選ばせるという形を取っています。 

ここがヘンだよ、ベイマックス

とはいえ、こんないい映画ベイマックスにもツッコミ所は結構あります。

ベイマックスはヒーロー映画?
ベイマックスはタダシが沢山の人を助ける為に作ったロボットです。
タダシの願いはベイマックスがヒーローとして人を助けるのではなく、むしろ量産されて一家に一台ベイマックスがいる世界です。
それにヒロたちのチームを組んだ理由は仮面の男を捕まえる事なのでヒーローを続ける目的EDにはなくなってしまっています。

そもそも邦題「ベイマックス」の原題は「BIGHERO6」です。

つまり元々ヒーロー物なものを宣伝などではヒーロー物は売れないからとあたかもそれを悟られないように宣伝していた売り方の問題なのかもしれません。

映画を観て想像していた内容との違いに驚いた方も多かったのではないでしょうか。
個人的にはED後にスタン・リーが出てきたら何にも言えません。
どう見てもヒーロー物でございます。

タダシの死は本当に事故だったの?
タダシの死は結局この話の中では事故だったのかどうか語られません、善意による理不尽な死であれば明確に事故である事を示さなければならないし、違うにしても何かしらのフォローを入れないと問題が宙ぶらりんのままです。

後半は科学でなくなる
初めは超技術にしても研究している描写や、ベイマックスがバッテリー切れを起こしたり、科学っぽい描写や制約があったものの後半は彼らのスーツや能力は制約が無くなり殆ど魔法になってしまいます。
チームで武器やスーツを開発しあってゆくヒーローはこの作品だけの貴重な特徴でピンチになった時、開発者ならではの科学の特性を活かした反撃が出来たのに、それがただのチームプレイになるのは惜しいです。

驚異的な愛おしさ、ベイマックスとその仲間たち

なんだかんだ言ってもこの映画の登場人物は非常にいい奴らで、愛らしいキャラばかりです。
それは細かいキャラのセリフや描写がテンポよく交わされる事で成り立っています。
例として各キャラの初登場シーンである、タダシがヒロを大学に連れてきた所を見てみます。

ゴーゴー登場、
ヒロに「科学オタクのラボへようこそと」ちょっとキツめに絡み、自分の電磁サスペンションの自転車を紹介、「この程度じゃダメ」と投げ捨てます。
約1分

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次にワサビ登場、レーザープラズマカッターを見せて、自分の揃えた工具がハニーレモンにばらされ怒ります。
約1分

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今度はハニーレモンがテンション高く絡んできて薬品の研究を見せます。
約1分

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フレッド登場、自分の趣味や発明の案を語ります。
約1分

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ベイマックスの登場、役割や機能、性能を説明します。
約2分

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キャラハン教授の登場、教授の壮大な理想に憧れヒロは大学に入学を決意します。
約2分

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たった約8分でこの映画に登場する主要人物がほとんど登場してどんな人物でどんな性格でどんな能力のある人間なのかが伺えます。
こういう仕掛けが細かく至る所にしてあるのです。
この魅力を見せる整理力が分かりやすさと楽しさを表現しています。

特にベイマックス。
ベイマックスは基本的にはダメロボットです。

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プログラム通りの受け答えしか出来ないし、動きも鈍い、電池が切れるとヘベレケになってポンコツになります。
しかし、人間に対して献身的で邪険に扱っても付いてきてロボットっぽくありながらひたむきさがある様に錯覚します。
更にヒロはベイマックスと交流や改造する事によって愛着を深めてゆきます。

鈍くてポンコツな動き+献身的なひたむきさ+愛着
=驚異的な愛らしさ
を兼ね備えるに至っています。

これらの細かい挙動が終盤のベイマックスとのお別れの悲しさに大きく響きます。

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激辛の手羽先を用意して
「さ〜て口から火を噴く準備はいい?明日は別の所が火を噴くほどかも」
ナチュラルに下ネタを入れてくる脇役の叔母さんまでキュートです。


見れば見るほどベイマックスは良く出来ています。

何より観た後、気持ちよく映画館を出られました。

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