映画を1分ごとに区切って観てみた。

映画の評論、研究を行うブログです

「映画けいおん!」を1分ごとに区切って観てみた。後編

物語としての工夫

物語の構造、キャラクター、内容の工夫を見てみます。

映画けいおん!は何を描いていたか

けいおん!のテレビ版は非常にゆったりとした彼女たちの学園生活を丁寧に描くことによって最終話ではこの幸せな学園生活は卒業という変化によって終わりを迎えるのだという物語を描いたことによって評価を得て、またブームになったアニメでした。

 

今回の劇場版はそんなテレビ版の間の物語を描いています。
つまり唯たち3年メンバーが卒業する事、そして残されるあずにゃんの為に曲を贈ることは既にテレビ版でやったことです。
加えて今回のロンドン旅行で描かれるピンチは大本のあずにゃんへの曲作りには直接関係のないピンチばかり(あずにゃんの靴擦れ、回転ずしでの勘違いライブ、唯のレズ疑惑など)でそこまでピンチとして推進力はありません。

 

物語の弱点としてゴールがすでに見えている。先がもう決まってしまっている。という構造を持った話作りをしている訳です。
しかしそのゴールに至る過程を丁寧に丁寧に描く事によって新しいロンドン旅行というエピソード、曲を作るために試行錯誤したディテールをまた楽しむ事が出来るようにしてあるように思えました。

劇場版で再確認したけいおん!の魅力

すばらしい人間関係

冒頭彼女たちは「バンドが音楽性の違いで揉める」ごっこをしています。
自分たちのやりたい音楽や歌詞の是非について彼女たちが揉める事は殆どありません。
加えて彼女たちからすればケンカですら人間関係を高める遊びになってしまっていることから、互いを認め合いくだらないけど面白いギャグを連発し、が本編ずっと続くつまりこの人間関係で行われるいちゃつきがこの作品の大部分の物語の推進力となっていると思います。

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唯のくせに!唯のくせに!唯のくせに!

キャラクターの動きやセリフから見える愛

加えてキャラクターの台詞ややりとりも非常に面白い物で特に冒頭OP後の約7分の地点では先ほどの「音楽性の違いごっこ」の反省会をメンバーでするのですが、ここは初見の観客に向けてのけいおん部メンバーの現在の状況説明のシーンです。
具体的にはけいおん部はいい加減な部であること、3年メンバー卒業を控えていることが説明されています。

 

セリフではこれまでの思い出を語りつつ3年メンバーの卒業の話題を話しています。

キャラクターの動きを見てみます。

 

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袋が空けけられなくて踏ん張るムギ

バームクーヘンの袋を空けようとするのを手伝おうとする澪

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後輩に大学に受かったのは奇跡だと言われて泣き真似をする律

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唯のハサミのイタズラに呆れるあずにゃん、かわいいでしょ!と得意げな唯


と非常にバラバラに動いていてそれがそのまま動作がキャラクターの性格説明になっています。

こうしたキャラクターの細かい動きをこれでもかこれでもかと全編通してやり続けているのでキャラクターの動きだけでも非常に情報量が多いです。

演出の丁寧さ

冒頭のバームクーヘンの袋を空けた後、顧問の先生である澤ちゃんが登場し卒業について感慨深い思いを語ります。

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あっという間だったわねぇ、もう唯ちゃんたちが卒業なんて。と澤ちゃん

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それに対してピクッと反応し下を向くあずにゃん

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引きで全員を見せる、1人だけ寂しそうな表情を見せるあずにゃん

 

こんなに繋がりあったメンバーだからこそ、あずにゃんだけは3年メンバーの卒業を内心快く思っていないのが分かります。
このように細かい演出を丁寧に丁寧にやり続けます。

友人に指摘されて気づいたのですが、唯たちがあずにゃんの曲を作っている時にアイデアが浮かばない唯は悩みますが、それを鳥をメタファーとして表現しています。

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ロンドンにいる間、鳥がアイデアが浮かばない時は鳥が止まっています。

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ロンドンでの野外ライブで自分たちはそのままでいいんだと気付きを得た瞬間、鳥が唯の目の前をバタバタと羽ばたくことで気付きます。

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そして、曲の重要な「天使」というフレーズも風が吹いて鳥が飛翔する様子を見て閃きます。
アマチュアバンドの唯ちゃんはアイデアを効率的に出す作業を知らないので周りに鳥がいても気付きません。

しかし、ふとした体験を通じて周りから閃きを得てゆく過程が演出によってなされていると友人に言われて驚きました。

 

ラストの送り出しの場面ではさらに卒業後の彼女たちは未来に対して希望に溢れていて、来年はどんなどんな楽しい事が起きるのだろうと希望を投げて終わっています。

全体的にこの映画は娯楽映画としてサービスが多く、キャラクターも愛らしく、ラストまで気が利いていて非常に良心的であるなと感じました。

ちなみにこうして映画本編を観た後に劇場版けいおんの予告を見ると少しでも面白くなるようにバレバレのニセピンチを入れ込んでいるのも個人的には好きです。

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「けいおん!」はいわゆる日常系の到達点と言われるアニメですが、社会的な背景の他にも作り手の細かいサービスに加え長く終わりのない日常に思えた物語として日々の一旦の終わりを描いた事によってそれが魅力的であれば魅力的であるほど終わりの間際の切なさ、感動が高まりまるので他の日常系アニメではなく、けいおん!がブームになったのはそこが要因の一つではないかと思います。