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映画を1分ごとに区切って観てみた。

映画の評論、研究を行うブログです

「風立ちぬ」を1分ごとに区切って観てみた。中編

ネタバレしかしていません。

未見の方は、日本を代表するアニメーション作家宮崎駿の長編映画引退作を

是非是非ご覧下さい。


「風立ちぬ」を1分ごとに区切って観てみた。前編 - 映画を1分ごとに区切って観てみた。

物語としての工夫

物語の構造、キャラクター、内容の工夫を見てみます。

まず風立ちぬは娯楽映画か?

前回の記事では、宮崎駿初監督作品「ルパン三世カリオストロの城」の時間と構成を見てみました。


ルパン三世カリオストロの城を1分ごとに区切ってみた。前編 - 映画を1分ごとに区切って観てみた。

そこから「カリオストロの城」と、今回の「風立ちぬ」との構成の比較をして見てみます。


「カリオストロの城」の構成は4つ

1.掴みの短い部分が4分
2.物語が映画本来の目的にたどり着くまでが21分
3.主人公が順調に活躍して一転ピンチになるまでが41分
4.目的を達成してめでたしめでたしとなるのが34分

この上なく基本に忠実な三幕構成で出来ています。以下引用。

三幕構成は、脚本の構成である。三幕構成では、ストーリーは3つの幕 (部分) に分かれる。それぞれの幕は設定、対立、解決 の役割を持つ。3つの幕の比は1:2:1である。

 つまり「カリオストロの城」は非常に娯楽映画のお手本的な手段をとっているのです。

これに対して「風立ちぬ」はどうでしょうか?
「風立ちぬ」の構成は8つ(前編より抜粋)

1少年二郎の夢と動機:13分
2.学生二郎、震災と菜穂子との初対面:17分
3.三菱重工業に就職:15分
4.ドイツへ研修旅行:14分
5.帰国、そして挫折:6分
6.魔の山へ、菜穂子との再開:11分
7.菜穂子との結婚:27分
8.零戦完成、夢の果て:13分

大体各パート約15分をベースにしながら話が進み、その中で大胆に削ったり加えたりをしています。
これは非常に作家性の強く、娯楽的要素よりも内面やテーマなどに重きを置いた構成であると思われます。
実際「風立ちぬ」では戦闘シーンやアクションシーンは目配せ程度でほとんど出てきません。
主人公の二郎についても「カリオストロの城」のルパン三世に比べてみると明白な様に、表情が控え目で一定な上、自分の感情や冗談などほとんと喋りません。
つまり娯楽映画的な共感を生む人気者のキャラクターでないのです。

何かと机に向かって書物をしているコイツが主人公

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このことから痛快なジブリ映画を期待していた観客の方は映画館で肩透かしを食らった方も多かったのではないかと予想できます。

二郎の夢

二郎は冒頭を含め度々、夢の世界に行きます。
例えば冒頭、少年二郎君は自分の目が悪く飛行機の操縦士になれない事に悩んでいます。
そこで夢の世界に飛んでカプローニの壮大な飛行機に触れて設計家になることを決意します。
このようにこの映画では何か葛藤があったり物語に閉塞感が出てくると夢の世界に飛んで夢の素晴らしい世界の美しい映像で閉塞感を吹き飛ばし鬱屈とならないような手法を取っています。

うまいのはこの手法が二郎の妄想しがちな性格、そして結末と、とてもよく合っているところです。
この夢の描写があるおかげでなぜ二郎が夢をあきらめないのか、ここまで努力してまたこだわるのか、何故二郎がエンジニア仲間に人気があるのかがとてもよく描かれています。

二郎の夢は他人にビジョンを見せる

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更にこの閉塞感を夢で吹き飛ばし突き進んだ結果、二郎はこの世の地獄を体験するのですが、それもまたカプローニと酒を飲みに行くという懲りなさ、ある種の力強さがまた味わい深いです。

未来の暗示

面白いのは二郎は知っていて突き進んだという描写が度々表現されます。

子供の頃から二郎は空を飛ぶ乗り物が兵器を運んでくるものだと知っている

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地震の火事の火の粉で空襲の幻を見る

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知らなかったではなく知っていて突き進んだ結果である事が二郎の夢に対するエゴイスティックな部分がより濃く表すことが出来ています。

二郎の性格設定

二郎はエゴイスティックであると書きました。
二郎は基本的には真面目で、礼儀正しく困っている人を見過ごせない性格です。
しかし同時に欲望に忠実、女好き、妄想にすぐ入る、興味のない事にはとことん興味がないという性格設定も同時になされています。
例えば、
人助けをするところですが少年時代の下級生のいじめを止める所以外、電車で席を譲るのも、震災でお絹を助けるのも、子供にシベリアをあげようとするのも全て若い女性が関わってきます。

若い女性に席を譲る二郎

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三菱重工に就職した際、目配せをするのは若い女性社員と置いてある飛行機

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このような描写が何度も何度も出てくるので確実に意図的でしょう。

付け加えて美学の分からない海軍の偉いおっさんたちの話も全く聞いていません。
しかしこれらの要素のお陰でおかげで二郎は女性に紳士的であるし、仕事や夢に集中して取り組むことができます。

この人間としての長所と短所を同時に描く事で非常に人間的なキャラクターを描く事成功していると感じます。

キャラクターの配置の意味

先ほどの未来の暗示と二郎の性格設定で重要な役割を担っているのがカストルプと妹の佳代です。

まずカストルプですが、彼は劇中「ここは忘れるにはいい所です。チャイナと戦争している、忘れる。満州国作った、忘れる。国際連盟抜けた、忘れる。世界を敵にする、忘れる。日本ハレツする。ドイツもハレツする。」

このセリフは日本やドイツの未来と同時に二郎自身への警告にもなっています。

カストルプのキャラクターとしての配置の意味ははこのハレツのセリフを言うことにあありますが、うまいのはカストルプが警告するのは菜穂子と交際して結核であることを告白されるする少し前、零戦が完成する前段落です。

カストルプの存在そのものが二郎の未来を暗示している

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次に妹の佳代ですが彼女は二郎の元に3回妹が現れますが、全て妹との約束を忘れています。

妹にまっったく興味がないのです。

忘れられてポツンな妹

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彼女は面と向かって「にぃにぃは薄情者です!」

と正論を言い続けるキャラクターです。

結婚後に菜穂子を山に帰すように最後の問いかけをしますが、正論に興味のない二郎はやはり佳代の言葉を退けてしまいます。

このようにキャラクターの役割を見ても何度も二郎はこのまま突き進んでいいのか?と問われている訳です。

 これがラストの悲劇を呼びますが、それも含めて非常に人間らしいと言えます。

人物はみんないい奴

この物語は人間関係の葛藤が全くありません。
基本的にみんないい人たちです。
新人シゴきをしていた黒川さんも二郎や結核の菜穂子を離れに止めて結婚の仲人までしてくれるし、上司の服部課長も二郎の能力を高く買ってくれるし、ライバルの本庄もナイスガイです。
これは意図的に人間関係の葛藤を省いて、二郎が真に葛藤すべき所にフォーカスを絞ったのだと解釈できます。

入社時、二郎にウインクする本庄、ウホッいい男

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こんなにいい環境、いい人間たちの元で描かれるのが悲劇という映画も中々ありません。

夢を追い続けた末にたどり着いたコントロール不能な大きく不条理な問題だからこそ、それでも「生きねば」と言える。だからこそメッセージが栄えるのです。

 

後編は「風立ちぬ」の中で個人的なオススメのシーンを書いていきます。

 


「風立ちぬ」を1分ごとに区切って観てみた。後編 - 映画を1分ごとに区切って観てみた。

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